「手話には何種類ある?」という質問には、先に何を数えるかを決める必要があります。国・地域ごとの手話言語を数えるのか、日本手話と日本語対応手話のような表現体系を分けるのか、指文字や国際手話まで含めるのかで答えが変わるからです。すべてを同じ階層の「種類」として並べないことが理解の近道です。
「手話の種類」が指すものを先に分ける
分類に迷う三つの例
「ASL」は手話言語の名前、「指文字」は文字を表す仕組み、「関西で使われる表現」は言語内の地域差というように、分類する軸が違います。「数字」も独立した世界共通の手話の種類ではなく、それぞれの言語や用法の中で学ぶ語彙・表現です。
教材一覧を作るなら、「対象の手話言語/単語・指文字・文法のどれを扱うか/地域・話者の注記」の三列に分けると混同しにくくなります。本サイトは日本手話を基盤とする語彙学習の入口です。英字の指文字が載っていることを、ASL全般や国際手話を学べる根拠にはしていません。
| 区分 | 例 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 自然言語としての手話言語 | 日本手話、アメリカ手話(ASL)、イギリス手話(BSL)など | 共同体の中で育ち、固有の文法を持つ |
| 音声日本語との対応を重視する表現 | 日本語対応手話、手指日本語などの呼称 | 日本語の語順や形との関係が強い |
| 文字を表す仕組み | 指文字 | 綴りを示すために使う。手話言語全体と同じ分類ではない |
| 国際的な場の実践 | 国際手話 | 固定された一つの世界共通語ではない |
資料によって用語や範囲が異なります。特に「日本語対応手話」「手指日本語」「音声と手話を同時に用いる方法を指すシムコム」などは同じ意味として機械的に置換せず、その資料が何を指すか確認してください。
国・地域ごとに異なる手話言語
日本手話・ASL・BSLは世界共通ではない
日本手話(JSL)、アメリカ手話(ASL)、イギリス手話(BSL)は別の手話言語です。名称に国名や地域名が入っていても、その場所の音声言語を手で表しただけではありません。音声言語とは別の歴史と文法を持ちます。
同じ英語圏のASLとBSLも同一ではないため、「英語圏ならASL」という選び方はできません。手話が世界共通ではない理由で、言語の分布と成立を詳しく説明しています。
地域・世代・話者による変異
一つの手話言語の内部にも地域差、世代差、話者差があります。学習者向けに整理された「標準」の表現は便利ですが、それ以外を誤りにするものではありません。会話相手の表現が教材と違うときは、否定せず、意味を確認し合います。
日本手話と日本語対応手話の位置づけ
地域差・世代差を実際に見比べるには
筑波技術大学の学習指導案では、日本手話言語地図を使って、地域や年代による違いを調べる学習が紹介されています。「方言がある」と読むだけでなく、資料にある一語を選んで比較してみましょう。
- 同じ意味の語を選び、まず年代をそろえて地域を比べる。
- 次に地域をそろえ、年代による違いを比べる。
- 資料名と対象者の条件を記録し、分からない点を講師へ尋ねる。
この順なら、地域と年代が同時に変わっている二つの動画を、単純に「別の種類」と判断せずに済みます。資料の収録範囲を越えて、その地域の全員が同じ表現を使うとも考えないでください。
文法・語順・非手指要素を見る
日本手話は日本語とは異なる文法を持つ視覚言語です。手や指だけでなく、表情、視線、頭や体の動き、指差し、空間が文法と意味に関わります。
日本語対応手話は、日本語の語順・構造と手話単語を対応させる表現として説明されます。ただし、現実の話者の表現は二つに完全に分かれるとは限りません。獲得時期、教育歴、場面、相手により連続的な変化があります。
二種類の優劣にしない
誰がどの言語・手段を使い、何を伝えたいのかを確かめましょう。優劣を決めるための区分ではありません。相手が使う言語を本人に尋ね、通じないときは筆談、文字、通訳なども選びます。詳しい比較は日本手話と日本語対応手話の違いで説明しています。
標準手話と指文字を同じ階層に置かない
新しい概念や社会的に必要な語の標準化は、地域を越えた情報共有に役立ちます。しかし「標準手話」は、地域の表現を排除する別言語という意味ではありません。誰が、どの目的で選定・紹介した表現かを確認します。
指文字は、かなやアルファベットに対応して綴る方法です。名前や固有名詞などで重要ですが、指文字を覚えるだけで手話言語の文法や会話が身につくわけではありません。
国際手話の位置づけ
国際手話は、異なる手話言語の使用者が国際会議、デフスポーツ、旅行・交流などで意思疎通するときに使います。視覚的な説明、共有された表現、文脈、その場のすり合わせが大切です。
一方、語彙も文法も完全に固定された全世界共通の言語ではなく、すべてのろう者に同じように通じるものでもありません。学習目的が国際交流なら、国際手話とは何かを確認し、実際の交流と熟達者の指導を組み合わせます。
「触手話」など、受け取り方の違いも知る
視覚で読む手話と、触れて読む手話
「手話」と聞いて、離れた場所から手の動きを見る方法だけを想像するかもしれません。盲ろう者のコミュニケーションには、手に触れて読み取る触手話や、見える範囲・距離に合わせる弱視手話もあります。内閣府の広報パネルは、この二つを紹介しています。
これは、JSL・ASL・BSLのような言語名とは異なる観点です。「使う言語」と「受け取りやすい方法」を分けて考えると、必要な配慮が見えてきます。初対面で相手の手を突然つかまず、本人や通訳・介助者に適した方法を確認します。
「手話以外の方法」も、別の選択肢として並べる
筆談、要約筆記、文字表示、読話、指点字などを、すべて手話の種類に数えるわけではありません。相手によって使える方法・使いやすい方法が異なるため、種類の一覧よりも、次の確認が会話では役立ちます。
| 確認すること | 聞き方の例 |
|---|---|
| 使用する言語 | 「どの手話言語を使いますか」 |
| 見やすい位置 | 「この距離・明るさで見えますか」 |
| 別の情報の出し方 | 「文字でもお見せした方がよいですか」 |
| 複雑な説明への対応 | 「通訳を利用できるように手配しましょうか」 |
これらは日本語での確認例です。相手が日本語の文字を読みやすいとは限らないため、答えを受け取る方法も一緒に調整します。聞こえ方だけから、その人の言語や必要な支援を決めないことが出発点です。
学ぶ目的と相手から選ぶ
- 日本のろう者と日常会話をしたい:相手が使う言語と地域の学習機会を確認する。
- 日本語の学習や授業を視覚的に補いたい:教育目的と本人の言語環境を専門家と確認する。
- 海外の特定地域で会話したい:現地の手話言語と通訳・ガイドの対応言語を調べる。
- 国際大会や交流へ参加したい:国際手話に加え、場面知識と異文化コミュニケーションを学ぶ。
- 名前を伝えたい:対象言語の熟達者が実演し、出典の示された指文字動画で学ぶ。
何を「種類」と呼ぶかを揃える
数を答える前に、手話言語、音声言語との対応を重視する表現、指文字などの補助手段、国際的な場での実践を分けます。日本手話、ASL、BSLは別の言語です。一方、指文字と国際手話を同じ階層の「言語」として数えると、説明がかみ合わなくなります。